深淵な奇経八脈―3 任脈

 

無極な原気から発生する衝脈から陰陽の極性をもつ任脈と督脈が分かれる。任脈は身体の全面正中そして督脈は背面正中にあり胎児の時には臍から腎に流れたエネルギーを任脈督脈で小周天させて胎児を成長させていく。

 

今回もPsycho-emotional pain and Eight extraordinary vesselの任脈の記載を紹介していく。

 

任脈は主要な陰の貯蔵庫であるが陰陽の概念である熱い―冷たい、柔らかい―固い、暗い―明るいなどによる陰の性質の理解が必要である。任脈の不調和は陰の過剰、陰のうっ滞あるいは陰の不足(陰虚)を引き起こす。過剰な栄養は過剰な陰を作り出す(痰飲、湿そして陰のうっ滞)そして栄養の不足は陰虚になる。

任脈の理解にその原型の性質を知るのも重要である。この経絡は女性性、特に母親が原型にある。任脈をConception Vesselと英語で現すがConceptionは受胎を意味する。したがって、任脈は妊娠、出産、誕生そして母親としてのプロセスに関係する。任脈の原型のエネルギーは男性、女性、母親、父親そして子供を持ったことのない人にも存在する。何故なら何かを考案して保持して抱え、栄養を与え、それを生み出し(誕生)その成長をサポートしていくエネルギーであるからである。これらはビジネス、園芸、アート、ペットや他人の子供であったりする。任脈のエネルギーは愛と自分を十分に表現する器である。

 

母親のエネルギーは人生をどのようにナビゲートするために重要である。任脈は自己愛を注入して人生を作り上げていく資質を保持させてくれる。もし母親が様々な理由、例えば出産後鬱、薬物中毒、母親との弱い結びつき等があると、出生した自分の子供とで結びつきを確立できなくなり、結果として子供が苦しむことになる。任脈の陰の資質の喪失は子供と親の栄養が不足している、放棄そして愛に価値がない感覚を生じさせる。これは実際の母親と子供の関係と思われるが、任脈のエネルギーは誰にでも与えることが出来るので、誰かが子供に十分な結びつきや健康的な成長を与える事が出来る。

 

任脈とバーストラウマ

 

出生はトラウマを体験するプロセスである。子宮の収縮によって産道に押し出されてこの世界に出てくるが、幸運であればそのプロセスが最低限の損傷で経過する。しかし幸運であっても出産はショックである。子宮の暗く、温かく、心地よい音響が響く場所から様々な感覚器に損傷を与える環境に出るからである。部屋の照明や感覚器への刺激はもはや暗い羊水(陰)のバッファーが無い環境に入った新生児には辛い。母親の臍帯血(強い陰)から酸素が十分に送られてきていたのが自分自身の呼吸(陽)で酸素を取り入れる努力を強いられる変化が起こる。自分で呼吸しなければならないもがき苦しみによって肺が膨らみ新しい外の世界に存在することになる。誰かが臍帯を切断すると栄養補給の経路が断たれるので子宮外の栄養供給を探すことになる。

 

出産が最適な環境で実施されたとしても苦しみは避けられない。もし未熟児出産、鉗子で頭を掴まれたり、肩が引っ掛かった難産であった場合のトラウマは大きい。また帝王切開も子宮切開による突然の減圧もショックになる。

 

任脈は出産トラウマを治癒させる働きがある。これは母親が出生直後の赤ん坊をハグすることで起こる。出生直後の赤ちゃんを速やかに裸の母親の胸に抱くことによって赤ちゃんの任脈(ほほ)が母親の任脈と繋がる。この任脈と任脈の結びつきは母親の心音と呼吸を聴きながら出生前と出生後の推移を助ける。この結びつきによって赤ちゃんのヒーリングが持続され母と子の結びつきが強くなる。このプロセスは子供が愛を感じてサポートされている感覚となり出生トラウマが閉じられる。

 

子宮の中に胎児として存在する時は分離の感覚はないが、出生後は分離感が生じるため自然と結合を求める。母乳の吸引は任脈同士を繋げて再び親子の結びつきを作り出す。新生児は自動的に母親の呼吸と心拍にシンクロする。母親の目を見つめ自分の存在と価値を確認する。そして愛を感じて根源の陰の源が結び付けられる。

この時期の母親の過剰なストレス、不安や落ち込みがあると結びつきの力が弱まる。母親との結びつきは子供が自分を認識する感覚と安全に守られている感覚を持つのに重要である。したがって、我々自身がどれだけ理想的な出産経過を持っているか興味深い。アメリカにおける出産と直後の管理は向上しているがそれでも理想とは程遠いので母親のストレスは大きいし子供との適切な結びつきが出来ない。

 

不十分な母親との結びつきが最初の精サイクル(女:7歳、男8歳)までに不十分であると大人になった時に人と結びつく能力が弱くなる。特に生後二年までの関係は重要である。もし自分を愛することができなかったら、他人をどうやって愛することができるのだろうか。人生の始まりの時に得られる陰の資質が無いときに他人からそれらを手に入れようと動いてしまう。それは自分が存在するための必要だと感じるからである。他人の世話をするのはその代償に自分が世話されるのを期待する。もしも人生の初期に無償の愛を受け取っていないと他人への無償の愛を提供できない。

 

任脈とセルフケア

 

任脈のインバランスの典型は自己のケアーが出来ない人である。自分のケアーが出来ない人は当然他人のケアーもできない。飛行機で酸素マスク着用時に子供より先に自分がマスクをつけるのに例えられる。

 

任脈と養い

 

摂食障害や食物との不健康な関係は任脈インバランスが根底にあることが多い。何かが欠乏したときに食べ物に安らぎを求める。この行動は世話をしてくれる人から与えられてしまう。もしどこかから落ちて怪我したときにクッキーをもらって気持ちが良くするパターンである。不快感や痛みの感覚、空虚感、孤独感を紛らわせる為に与えられた食べ物との病的な結びつきは摂食障害や肥満の原因になる。

もし新生児や赤ちゃんの時の任脈が健全であれば愛され守られており子供になっても自分で沈静させることができる。またその反対もしかりで自己鎮静の能力が決して発達せず食物や他の物質によって過剰な感情や空虚感を麻痺させる行動になる。

したがって、任脈のエネルギーは自身及び他人と健全な結びつきとコネクトによる滋養と愛に必須である。

 

任脈と閉鎖

任脈のギフトの一つに閉鎖を作り出すのと手放しの能力である。これはセルフケア―の一部でもある。もし自分自身を十分にケアー出来ているのであれば体験や自分をケアーして助けてくれていた人を手放すことができる。過去を手放せないあるいは現在を受け入れていることはこれからの創造や目的とする将来へ同調する能力を妨げることになる。

 

任脈と気のうっ滞

任脈の英語にはDirecting Vesselという表現があります。気のうっ滞や反逆が起こると任脈は気の動きを促したり気の流れを反転させたりする。これは我々の最初の先生である母親の仕事に類似している。母親は何かを学んでいる時に褒めたり、躓いて不安な時に違う方法を指し示してくれる。このような人生初期におけるサポートの経験は欲求不満、ストレスそして失敗に対応する能力を学ばせてくれる。

子供の時に任脈のエネルギーが過剰なことがある。これは母親が過剰に子供をコントロールするあるいは世話焼きすぎが子供に反映している。この状態が起こると気が効率よく流れなくなり陰が蓄積するようになる。

過剰な陰は母親との結びつきが出来ないあるいは自己鎮静ができない結果でもある。もし恐れや不安な状態にある時に陰のエネルギーは均衡状態を作り出すバラストになり沈静化させてより現実感を取り戻す。もし恐れを処理できない発散させる恐ろしい母親に育てられると子供は過剰にコントロールされて陰の陽への変換を抑制させられる。これらの母親は子供の自然な好奇心を制限してしまう。子供たちは自身のプロテクトにエネルギーを消耗してリスクがある動きをブロックしてしまう。このコントロールが陰のエネルギーを陽に変換する流れをブロックして陰が過剰になってしまう。

 

任脈と中毒

麻薬中毒はハートの君主が居なくなった状態です。これらの患者は健全な方法で人とのコネクションや結びつきを作れない。オピオイドは脳内で自然に作られる報酬です。新生児は両親によって自然に作られる脳の化学物質に依存している。エンドルフィンが高い両親は子供の世話を熱心に行う報酬でもある。これらの物質は脳の感情装置の重要な構成物質で防御や栄養に必須である。一方オピオイド中毒者では圧倒的過剰な結びつきは愛を感じたい行動に関連している。十分な適切な結びつきが得られなかった子供は大人になって化学物質による代用物をより求めるかもしれない。

任脈に立脚した健康な結びつきは子供期に連帯感の感覚が確立する。ある研究では結びつきが出来なく孤立感があり、コミュニティーの一部と感じられないひとはより中毒患者になりやすいという。

 

母親の目の輝きの光で子供を見つめた時に瞬時に子供の脳内の化学物質に効果が発現する。子供が深い愛と強い結びつきを母親の目に感じたならば深い結びつきと一体感を感じる。十分なアイコンタクトが親子で起こっていると子供は十分にその感覚を得たのでもう充分であると感じることが出来るので、薬物などの体外から取り込む薬物を必要としない。もし薬物を取り込んだとしても容易に離脱できる。任脈のパワーは愛のパワーであり、一体感のパワーでもある。

 

任脈の経路

任脈の主要な経路は下腹部(女性は子宮)から起こり会陰に至る。そして正中全面の体幹を上昇して口の承漿に至る。この部位で督脈との連絡と胃経の経穴とも連結する。胃経との連結は任脈の機能の一端を説明できる。健全な陰のエネルギーを感覚器に送り込むことで世の中をより健全でグラウンディングした状態で確認できる。これはまた任脈の消化の側面を強化できる。消化は口から始まるので胃経への連結は自分自身に栄養を与える感覚をより鮮明にすることが出来る。胃経への任脈の繋がりは更に体液の産生でも重要である。任脈は出生前の液体の源(陰)であり、胃は出生後の液体で消化のプロセスを作り出す。任脈は督脈との経路とも繋がっているので陰陽の相互関連を確認させてくれる。下腹部に起源を持つ任脈は身体正面を上昇する流れとともに身体の背面の脊椎を上昇させる流れが督脈で陽気であり、任脈の気を下方に導くパワーとなっている。

 

任脈による治療

・婦人科疾患:初潮、思春期、不妊、生理不順、PMS, 妊娠、出産後 閉経

・下焦の異常:男女の生殖器異常、便秘、下痢、泌尿器の異常、月経の異常、特に気のうっ滞や腎虚に関連した症状

・体液の異常で過剰あるいは不足の問題

・肺気虚による喘息、あるいは腎が気を

保持できない時

・陰虚の症状:腎虚が心臓、肺、肝臓そして胃を障害している時

・気のうっ滞が三焦の全てに障害を与えている時

・気のうっ滞によって下焦に発生した塊。男性の股間、生殖器の痛み、腫脹。女性の生殖器系の塊

 

 

つづく

 

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